外貌醜状の等級改正

従来、外貌醜状の後遺障害等級については、労災制度及び自賠責制度上、女子の著しい醜状は第7級、男子の著しい醜状は第12級、女子の醜状は第12級、男子の醜状は第14級に区分されてきました。

 

しかし、労災制度における著しい外貌醜状に係る障害等級の男女間の著しい格差を違憲とする京都地裁平成22年5月27日判決が平成22年6月10日に確定したことを受けて、国は、昭和22年の制定以来一度も改正がなかった労災制度上の外貌醜状に係る障害等級の認定のあり方について、社会的状況の変化も踏まえた検討を行いました。

そして、平成23年2月1日、男女差の解消を図るため、女性の等級を基本として男性の等級を引き上げ、第9級として「外貌に相当程度の醜状を残すもの」を新設する改正を行い、併せて等級認定基準の見直しを行いました。

 

また、平成23年5月2日自賠責制度についても、労災制度に準じた改正が行われました。

 

ただ、労災制度と自賠責制度とでは、改正の遡及適用(過去にさかのぼって適用すること)の点で若干の相違点があります。

 

労災制度上は、改正前の第12級13号又は第14級10号(=男子の外貌醜状障害)に該当し、平成22年6月10日以降に障害(補償)給付の支給決定を受けた者又は受ける者については、当該障害に係る障害(補償)給付の支給事由が生じた日(=症状固定日)から改正による認定基準を適用することとされました。

したがって、例えば、平成22年1月30日の業務災害により顔面を負傷し、平成22年6月30日に症状固定となって外貌障害が残存し、改正前の基準により障害補償給付の支給決定を受けていた男性についても、改正後の認定基準が遡って適用されるということになります(例1)

 

これに対し、自賠責制度上は、平成22年6月10日以後に発生した自動車事故について、改正を遡及適用することとされました。

そのため、例えば、平成22年1月30日の(業務災害・通勤災害でない)交通事故により顔面を負傷し、平成22年6月30日に症状固定となって外貌障害が残存した男性については、改正後の認定基準は適用されず、改正前の基準により等級認定がなされることになります(例2)

 

しかし、改正過程で、自賠責制度と労災制度との間で遡及適用による取扱いの差異が生じることが特段認識されていたとは考えられず、両制度の取扱いの差異に特段の合理性が認められるのかという点に疑問がないわけではありません。

 

例2のような場合には、自賠責に対する異議申立てによっても改正後の基準による等級認定を得ることはできないので、損害賠償請求訴訟を提起して適正な判断を仰ぐということになるでしょう。

 

従来から訴訟では、外貌障害について、必ずしも自賠責制度の等級表上の労働能力喪失率がそのまま認定されるという訳ではなく、等級表上の労働能力喪失率を参考に、被害者の年齢や職業、性別、後遺障害の部位程度、当該被害者の職業に対する具体的な影響の程度等、諸般の事情を総合判断して、労働能力喪失率が決定されてきましたので、例2のような場合、今回改正の経緯を踏まえつつ、具体的な事情を主張立証していく必要があるでしょう。

特に、線状痕が残存したケースについては、今回の改正により第9級として「外貌に相当程度の醜状を残すもの」が新設されましたので、第9級の認定基準等を踏まえた詳細な主張立証が必要になるものと考えます。

 

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弁護士 岩井婦妃