「民法の一部を改正する法律」が平成29年6月2日に公布されました。施行日は、一部の規定を除き,公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。
損害賠償請求との関係でも影響が及ぶ改正項目がいくつかありますが、今回は最もドラスティックな影響があるものと見込まれる、遅延損害金、逸失利益に関連する項目を中心に見ていきます。
1 法定利率・遅延損害金
交通事故などの不法行為による損害賠償請求訴訟では、賠償額に加え、遅延損害金の請求ができます。改正民法では、遅延損害金の利率に関し、次のような変更がありました。
まず、法定利率が、現行民法の年5%の固定制から、3年毎に見直す変動制となりました。改正当初の法定利率は3%となります(改正民法404条)。
そして、金銭債務の不履行についての遅延損害金については、約定がなければ「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率」によることになりました(改正民法419条1項)。
不法行為に基づく損害賠償債務は、判例上、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものとされており、この点の変更はありませんので、改正民法施行後は、不法行為による損害賠償請求訴訟での遅延損害金は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」である不法行為時(損害の発生時)を基準日とする法定利率によって算定するとことになります。
2 中間利息の控除
中間利息の控除というのは、逸失利益の算定等の際に行う作業です。
逸失利益は、将来、長期間にわたり得られるはずであった利益を、現在、一時金として請求するものなので、将来の価額を現在の価額に引き直す作業が必要になるのです。つまり、現在の一時金を運用すれば通常得られる将来の利息分は控除するわけです。
改正民法では、法定利率によって中間利息の控除を行うことが明文化されました(改正民法417条の2・同722条1項)。最高裁平成17年6月14日判決が示していた「将来の逸失利益を現在の価額に換算する際に控除する中間利息の割合については民事法定利率によらなければならない」との取扱いを踏襲したものです。
逸失利益の算定結果は、この改正により大きく異なることになります。法定利率が5%(現行)の場合と、3%(改正後)の場合では、後者の算定結果の方が大幅に増額となります。
民法改正後は、逸失利益の額についての攻防が激化するのではないかと思われます。
弁護士 岩井婦妃